和文化を肌で感じられる特別な空間で、他では味わえないコラボレーションを楽しむ『出張和菓子作り体験』。今回はガラス作家イイノナホさんとのコラボレーション。イイノさんの作品をイメージしたオリジナルの和菓子作りと、イイノさんのガラス茶碗でのお点前をお楽しみいただきました。当日の雰囲気をスタッフがお伝えします。
今回の会場となるイイノナホさんのギャラリーは新宿御苑のすぐ裏手にあたり、樹間からこぼれる日差しの中、はらはらと舞い落ちる葉っぱや、御苑を訪れた家族連れの歓声にひぐらしの鳴き声が重なる調子は、のどかな休日の空気と夏の名残りを感じさせます。
和装に身を包んだイイノさん自ら入口を掃き清めて開店準備。
ほのかに漂うお香といぐさの匂いに心が安らぎます。
準備の合間にはイイノさんから作品にまつわる興味深いお話、「ガラスは厚さ6ミリになりたがる性質がある」「作業着には涼しくて動きやすいスカートが最適」「窓辺に並べられた印象的な丸石は、高知のとある海岸で見つけたもの」等々おうかがいして、スタッフ間でも盛り上がりました。
参加者が揃ったところでイイノさんからご挨拶。
「本日は、かねてよりご縁のある銀座凮月堂から職人さんをお招きして、私のガラス作品をイメージした和菓子と伝統的な和菓子の2種類をお作りいただきます。つぎに、アトリエの一角に設けたお座敷で、私のお茶の先生によるお点前を体験していただきます。ご自身でお作りした和菓子とともにお抹茶をお楽しみください。お帰りの際は、当イベントのために作成したガラスの菓子器をお持ち帰りいただきます。それでは皆さま、よろしくお願いいたします」
まずは和菓子作り体験からスタート。和菓子職人の永用さんと髙木さんが各テーブルに着き、お客様の目の前で実演しながら流れを説明していきます。初めての方でも無理のないペースで、2種類の和菓子を2つずつ作成します。
ひとつは、イイノさんのガラス作品をイメージした『彩雲(さいうん)』。まわりは薯蕷練切(じょうよねりきり)製で、中身は栗餡です。
※薯蕷(じょうよ)…粘り気のある芋の総称。当社では大和芋を使用。
※練切(ねりきり)…白餡と芋を合わせた生地で作られたお菓子の生地。「生地をよく練り、千切って冷ます。」という手順を何度か繰り返す工程から「練切」と名付けられたと言われています。
もうひとつは、重陽の節句にちなんで『白菊(しらぎく)』。まわりは薯蕷金団(じょうよきんとん)製で、中身は粒餡です。
※金団(きんとん)…練切や羊羹をふるいにかけ、細かくした欠片を寄せて餡玉に植え付けたお菓子。
◆『彩雲』の作り方
※菓銘はイイノさんに付けていただきました。
まずは、餡を包むための生地を平たく伸ばしていきます。
作業していると手がべたついてくるので、こまめにおしぼりで拭くのがポイントです。
また、材料はとても乾燥しやすいので、使わないときはラップをかけておきます。
それでも時間が経つと表面が乾いてくるため、時々もんでほぐしてやります。
平たくした生地で餡を包んでいきます。やや難易度の高いこの工程は包餡(ほうあん)と呼ばれます。親指で生地を押し上げて、餡玉を四方から囲うようにしてから、たるんだ生地で隙間をふさぎます。包餡が終わったらまんまるに形を整え、濡れ布巾をかけて乾燥を防ぎます。
飾り付けのために7色の生地から少量ずつ取り分けて丸めていきます。
色やサイズはお好みですが、気持ち小さめに作るとバランスが良くなります。
小さい餡玉を作るのは意外に難しく、指を2本使って丸めるのがコツです。
貼り付けるときは、必ず指先を湿らしておきます。そうしておかないと指に付いたまま生地に貼り付いてくれません。
薄くつぶしてから貼ると透明感が出て、そのまま張りつけると強い発色になります。
色が重なっても綺麗ですし、生地と同じ白を重ねるのもありです。
皆さま思いおもいの飾り付けを楽しんでおられました。あまりの可愛らしさに「食べるのがもったいない!」とおっしゃるお客さまも。
仕上げに絹布巾を使って茶巾絞りにすることで表情をつけます。
お菓子を丸ごと包んで、てるてる坊主のように逆さまに向け、生地をたぐり寄せて引き締めます。キュッと三本指で薄皮をつまむ感じに押してから、絹布巾を丁寧にほどいたら見事完成です。
テーブルのあちこちで「わあ!」「素敵!」と歓声が上がりました。出来上がったお菓子にカメラを向ける表情もニッコリ笑顔で満足げです。
◆『白菊』の作り方
はじめに金団篩(きんとんぶるい)を使って生地をそぼろ状にします。一気に漉すとだまになってしまうため、奥の方から少しずつ漉していきます。細目の篩で漉されたそぼろの繊細な美しさにため息が漏れます。
いよいよ今回のハイライト。そぼろを寄せて集めて金団に仕上げます。
餡玉を箸の先に刺して、端っこに落ちている半端なそぼろを、餡玉の底の部分にトントンと付けていきます。
一通り付け終わったら餡玉を箸から抜いて、側面にそぼろを植え付けていきます。
どうしても隙間ができてしまい皆さま苦戦されていましたが、すかさず職人がフォローに入ります。そぼろを箸先にくっつけて押し込みスッと抜くイメージで、植え付けるたびにお箸の先を拭くようにすると作業しやすくなります。
最後は真ん中に残っている見栄えの良いそぼろを上面に植え付けます。植え付けが済んだところは極力触らないようにします。
仕上げに菊のしべで飾り付け。しべを付ける際も三角棒の先端をしっかり拭いておきます。
先端に黄色い生地をほんの少しのせて、お菓子の真ん中にスタンプのように押し付けたら『白菊』の完成です。お手本通り綺麗にまとまってほっと一息。お疲れさまでした。
本日は十五夜ということで、希望者は『白菊』を『うさぎ』にアレンジ。
遊び心あふれる即興の技に「すごい!」「かわいい!」あちこちで大盛り上がりでした。
◆お点前について
お待ちかねのお茶の時間。イイノさんのお茶の師匠である弦巻先生と、ガラス仲間でありお茶の先輩の奥野さんのお点前で、作りたてのお菓子とお抹茶をいただきます。
イイノさんのお菓子皿に一列に並べられた自作のお菓子をいとおしそうに眺める皆さま。得難い機会にいたく感動されているご様子。
イイノさん厳選のガラス茶碗でふるまわれる抹茶は格別の味。身体に染みわたる美味しさに笑顔がこぼれます。本日は九州の湯布院産のお抹茶とのこと。ほのかに色の入った水差しの透明感にも注目です。
お菓子をいただく際の菓子切は、なんと弦巻先生が自作されたもの。一本ずつ異なるデザインで、こちらも嬉しいお土産としてお持ち帰りいただきます。
ガラス器の景色を楽しむ安らぎのひと時、講師とお客さまの距離が近く気持ちの通い合う素敵なお茶席となりました。
イベント後はイイノさんや先生方を交えてしばしご歓談。お菓子作りやお茶席での感想を共有しながら和やかに会話がはずみます。
「和菓子が手作業と素朴な道具で作られていることを体験できて面白かった」「和菓子一つひとつに色んなエピソードが込められていると教えていただき嬉しかった」「ギャラリーで本格的なお点前をイイノさんとご一緒できるなんて贅沢」など嬉しいコメントを多数お寄せいただきました。
午後の部の終わりには、ほどよく日が翳ってイイノさんのシャンデリアが見事に映え、神秘的なムードに包まれました。
今回はイベント特注の菓子皿をお持ち帰りいただきます。一点ごとに表情の異なるユニークな器で、ご自宅でも憩いのひとときをお過ごしいただければ幸いです。
これからも銀座凮月堂の和菓子作り体験は独自の切り口で、和菓子の魅力を五感を通じて味わえるようなコラボレーションを開催する予定です。ぜひご期待ください。