和菓子作り体験の講師でお馴染みの和菓子職人・永用さんから、5〜6月に提供している二種類の上生菓子『菖蒲(しょうぶ)』と『つつじ』についてご紹介いただきます。
まずは『菖蒲』から、こちらはどういったお菓子ですか?
上生菓子とはお茶席に用いられるお菓子の一種で、この『菖蒲』は上生菓子の中でも「練切(ねりきり)」と呼ばれています。
練切とは、白餡と芋を合わせた生地で作られたお菓子で、当店の練切は大粒のいんげん豆「大手亡(おおてぼう)」の餡に、蒸して裏ごしした「薯蕷(じょうよ※粘り気のある芋の総称。当社では大和芋を使用)」をつなぎに用いた、風味と粘りが特徴の薯蕷練切です。
練切はどのように作られているのでしょうか?
仕込みは当ビル8階にある工房で次のような手順で行います。
① 大和芋の皮をむいて蒸したものを裏ごしします。
② 砂糖と合わせて銅製のさわり鍋で炊き、ふたたび裏ごしします。ちなみに、銅は熱伝導性が高く焦げにくいため、生地作りに最も適しています。
③ 白餡と合わせて同様に炊いて、更に裏ごしします。
④ 生地をよく練り、千切って冷ます。という手順を何度か繰り返します。諸説ありますが、この「練って千切る」工程から「練切」と名付けられたと言われます。
⑤ 生地を必要な色数に取り分けて、それぞれに食紅で色をつけたら仕込み完了です。何度も裏漉しを繰り返すことで滑らかな口当りの生地ができあがります。
この生地で餡子を包み、手のひらや和菓子道具で細工を施して、一つずつ『菖蒲』の形に仕上げていきます。今回は和菓子作りの様子を動画で撮影したので、是非こちらもご覧ください。
和菓子作り「菖蒲」動画 ※音声はミュートで再生されます。
続いて『つつじ』についてお聞かせください。
『つつじ』は上生菓子の中でも「金団(きんとん)」と呼ばれる細工のお菓子です。金団とは、練切や羊羹をふるいにかけ、細かくした欠片を寄せて餡玉に植え付けた細工です。
今回は練切で作っているのですが、金団は表面積が広く乾燥しやすいため、通常の練切より水分を多めにしています。
白餡と大和芋を混ぜて生地を仕込むときも、通常の練切ならば鍋で火にかけながら混ぜるところを、水分を逃がさないよう布巾の上で混ぜる「岡混ぜ(おかませ)」という手法を使っています。火が入っていないぶん、芋の風味を感じやすいのが特徴です。
『つつじ』を作るにあたってのこだわりのポイントは?
代表的な和菓子道具である「金団ぶるい」を使って生地を細かくするとき、工夫しているポイントが二つあります。
一つは、色の異なる生地を貼り合わせてからふるいにかけることで、金団の欠片が美しいグラデーションになります。
もう一つは、格子状になっているふるいの目を45度くらい傾けて使うことで金団の欠片の先端がとがってシャープな印象になります。これによって植物の繊細な動きを表現しています。
また、箸を使って金団の欠片を植え込みする際は、不揃いなものを下部の目立たない所に使って、きれいなものは上の方の仕上げに取っておくようにします。植え込んだ金団は非常に柔らかいので、なるべく触らないように気を付けます。
上生菓子の名前の由来見た目の特徴について教えてください。
今回はどちらも季節を代表するお花の名前ですが、上生菓子に付けられる名前は歳時記や和歌から採られることが多いです。
見た目に関しては、練切は細かい仕事がしやすいので写実的なものが多く、金団は季節感を表した抽象寄りの意匠が多い印象です。
他にも和菓子にまつわる話があれば、是非お聞きしたいです。
伝統的な和菓子においても時代の移り変わりと共に少しずつトレンドが変化している実感があります。代表的なところではサイズ感でしょうか。
昔は大ぶりなサイズが主流だったようです。当時は今よりも甘いものが貴重だったので、半分はお茶席で召し上がって、残りの半分は持ち帰って家族で楽しんだそうです。
現在、銀座凮月堂の上生菓子は、佇まいの美しさが引き立つように40g前後の小ぶりなものをお作りしています。
今後も折にふれて和菓子職人から直接、和菓子の魅力をご紹介していきます。取り上げる内容について、ご意見・ご要望などがございましたら店頭スタッフまたはお問合せフォームよりお知らせください。
また、ご自宅で和菓子作りを楽しめる和菓子道具セットや練切の材料も近日中に発売予定です。こちらも是非ご期待ください。