和文化を肌で感じられる特別な空間で、他では味わえないコラボレーションを楽しむ『出張和菓子作り体験』。今回は夏休み企画として、自由学園 明日館の閑静な広間で、和菓子作りとお点前をお楽しみいただきました。当日の雰囲気をスタッフがお伝えします。
本日は3部制となっており、第1部は、「親子を対象とした夏休みイベント」。第2部は、親子対象と、「大人を対象とした和文化に親しむイベント」を、二つのテーブルに分けて開催。第3部は、すべて大人対象のイベントとして行いました。
会場となった自由学園明日館は、1921年(大正10)、羽仁もと子、吉一夫妻が創立した自由学園の校舎としてアメリカが生んだ巨匠フランク・ロイド・ライトが手がけた名建築。夫妻の目指す教育理念に共鳴したライトは「簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい」という夫妻の希望にかなうよう自由学園を設計したそうです。
会場利用にあたっては、子供も大人も同じ目線でお茶のお点前やお菓子作りに取り組み和文化の楽しさを味わう、という本催しの趣旨にご賛同くださった明日館様のご厚意により協賛いただける運びとなり、飲食イベントでの利用を特別に許可してくださいました。
池袋駅メトロポリタン口から雑踏を抜けて細い路地をしばらく行くと、明るい芝生に囲まれた、可愛らしい緑屋根の自由学園が迎えてくれます。
校舎に滲み入る蝉の声、窓から幾何学形に切り取られた夏の日差し、古い建物特有の空気と飴色の柔らかい照明に包まれて、遠い記憶を呼び起こされるような不思議な気持ちになります。
「親子を対象とした夏休みイベント」
歴史を感じさせる食堂に集まった親子体験の参加者一同、声をひそめてそわそわした雰囲気の中、司会進行役の渡辺さんの口上で和菓子作り体験が始まります。
「本日お越しいただいた明日館は女学生の学び舎としてフランク・ロイド・ライトの設計で建てられた重要文化財ではありますが、人々の交流の場として使いながら後世に残していきたいという運営の思いがあり、銀座凮月堂の出張和菓子作り体験を開催できる運びとなりました。どうぞ館内を自由にご覧いただき、心ゆくまで体験をお楽しみください」
いよいよお待ちかねの和菓子作り体験。
暑気払いにぴったりの水にちなんだ上生菓子『潮騒』と『水辺』、2種類を2つずつ作成し、後ほどお好きな方をお茶席でお召し上がりいただく流れです。
『潮騒』:風味豊かな枝豆餡を淡い水色の薯蕷練切(じょうよねりきり)で包み、絹布巾で絞りこんで波のうねりを表現。仕上げに氷餅をふってしぶきに見立てています。
はじめに和菓子職人の永用さんと髙木さんが、それぞれ担当するテーブルに付いて、やさしいトーンで例えや擬音をまじえながらお手本を見せてくれます。職人の手先にそそがれた視線は真剣そのもの。
和菓子作りの重要なポイントは、餡子でべたついてくる手をこまめに濡れ布巾で拭いておくこと。これを守れば格段に作業しやすくなります。
ご家族やお友達と隣り合って和菓子作りを体験する楽しさに各テーブルから笑顔がこぼれます。
餡子を楽しそうな手つきで丸めているお子さま。角をつけたり、細長くのばして紐をつくったり、飾り付けに熱中するお子さま。思いおもいに創意工夫して盛り上がる一幕もありました。
後半になると手のひらや指先を器用に使って職人も目を見張る仕事ぶり。手を拭くしぐさも板についてきました。
『水辺』:庭池の水面にゆらぐ水草や可愛らしい金魚を、薯蕷金団(じょうよきんとん)と羊羹で表しました。中身は自家製の粒餡で、口の中でほろりとほどけます。
ご家族で手順を確認しながら、お箸と指を器用に使って飾り付け。苦戦のあまり思わず声がもれます。とくに金団篩(きんとんぶるい)で生地をこすところは力加減がむつかしいようです。
こちらの和菓子作りは、金魚や小石などモチーフを自由に配置してご自身のお好みのものが作れるところが醍醐味ではないかと思います。
独創性を発揮してジオラマのように作り込んだり、余った材料をアレンジして別の上生菓子に飾り付けたり、自由な発想にハッとさせられることも。
職人が作った見本や食材を囲んで興味津々のご様子。「食材をどのように仕込むのか」「お菓子は何のかたちを模しているか」するどい質問が次々に飛び出します。
最後まで集中が途切れることなく皆さま熱心に取り組んですばらしい出来栄えでした。
それぞれご自分の作品をいとおしそうにカップに収める姿が印象に残っています。
前庭に面した厳かなホールに場所を移して、森先生の講話とお点前へと続きます。
今回行うイスとテーブルでのお点前は150年ほど前の京都博覧会の開催時、外国人向けに考案されたそうです。茶釜から沸き立つ湯気を眺めながら、すこしずつ気持ちを高めていきます。
【茶道裏千家 森宗勇先生 略歴】
千葉県生まれ。本名・勇己。
戦国武将・森忠政の流れを汲む分家の一つ、久留里藩老森清太夫家の16代後嗣。
忠政の兄・森蘭丸は信長の小姓となり、本能寺の変で討死したことで知られる。
1998年フランスに渡り、オルガンの建造技術を学び帰国。2001年から07年まで番組制作に従事。また、裏千家茶道を勢宗正に師事する。その後、裏千家・坐忘斎千宗室家元より宗名「宗勇」を賜り、現在茶道裏千家准教授。
講話は、洋菓子と和菓子の違いや、抹茶の産地ごとの特徴にはじまり、お茶菓子の格付け、お菓子の召し上がり方、甘いものと苦いものの関係、専門用語の説明など多岐に渡り、流れるような語り口でお茶とお菓子にまつわる様々な文化をご紹介いただきます。
先ほど作成した上生菓子を金工作家・坂野友紀さんの金皿にのせて、黒文字でひと口大に切り分けていただきます。一同、神妙な面持ちで自分の作品をじっくり味わいます。
お点前に入る前には、薄茶の点て方と、召し上がるときの作法を、一つひとつ実演をまじえてご教授いただきます。
お子さまも親御さんも、熱心に耳を傾けておられ、お点前をお楽しみいただけたご様子。
「所作についても詳しく教えていただき、お茶の世界に引き込まれました」
「お菓子とお茶という切っても切れない関係を体験できて本当によかったです」
「お話をうかがいながらお点前を体験して、息子は苦すぎたと言いつつも飲めたことに達成感を得たようで、とても良い思い出になりました」
等々、嬉しいご感想をお寄せいただいております。
最後に質問タイムや記念撮影を行い、にぎやかな声と拍手に包まれて解散となりました。
「大人を対象とした和文化に親しむイベント」
はじめに和菓子職人の実演があり、それをお手本に作っていく基本の流れは変わりませんが、大人対象の回では職人技を期待するまなざしに応えるようにキレのある実演で魅せてくれます。繊細な手仕事に「涼しげ」「美しい」と歓声が飛び交います。
リピーター参加も多く、慣れた手つきでどんどん先の工程へと進んでいる方も。
◇『潮騒』の作り方
水色と白色の練切を貼り合わせてぼかしを入れた後、枝豆餡をのせて包餡していきます。
包餡が終わったら、てるてる坊主のように湿らした絹布巾でくるんで、しわが入るように絹布巾をねじり、人差し指でつまんで波のうねりを作ります。
この工程は絹布巾の中身が見えないために多くの方が苦心されていましたが、その難しさが楽しさにつながっていたように思います。
仕上げに氷餅(乾燥させた薄いお餅を細かく砕いたもの)をふりかけて波しぶきを表現したら出来上がりです。
◇『水辺』の作り方
金団のそぼろ部分を作っていきます。
金団篩を45度ずらしてふるいにかけると毛先が尖って綺麗になります。
くっつきやすいので、手のひらの柔らかい部分を使って、下に押しつけてから前に滑らすのがコツです。一発勝負なので、少しむつかしそうに感じた方もいらっしゃいました。
そぼろを中餡に植え付けていきます。
土台には細かい切れ端を座布団のようにくっつけます。
お箸でくっつけるようにそぼろを拾い、
中餡のまわりにお箸をさして植え付けを行います。
上面は植え付けたらあまりいじらないのがポイントです。
先ほどはむつかしいとこぼしていた初挑戦のお客さまも、
職人の手ほどきですぐに要領をつかみ、笑顔で植え付けをされていました。
最後に細かなお菓子で飾りつけして完成です。
小石に見立てたすり胡麻入りの餡子と羊羹製の金魚はお好みで配置。
錦玉という透明のお菓子は寒天と砂糖で作られており、
金団のくぼんでいるところに入れると、きれいに水面の輝きを演出できます。
大人対象のお茶席は、庭の緑と午後の陽射しを背に受けて時間の流れがゆるやかに変わり、まるで小旅行に来たような雰囲気に包まれました。
◇『お点前』の手順
お抹茶を少量取り、お茶碗に入れてお湯を注ぎます。
お茶碗をしっかり押さえて、茶筅を奥・手前・奥・手前と動かします。
はじめは底を掃くようにカサカサと。次に水中をシャバシャバ動かして、最後は水面を音を立てずにかき混ぜます。頃合いになったら「の」の字をかくように動かして、大きめの泡をつぶしたら出来上がりです。
頂くときの所作は、お茶碗の絵が描いてある側を正面として、一番良い景色が見えるようにと正面向きで渡されるので、受け取った相手はそのまま頂いては恐れ多いとお茶碗を90度回して頂きます。その際は45度ずつ2回に分けて回します。
そうして出されたお茶は三口半で飲み干します。この瞬間、会場が深い静寂に包まれて、特別な一体感が生まれました。
最後の一口は吸い切りと呼ばれ、スッと音を立てて飲みきることで「美味しく頂きました」と感謝を表します。飲み終わったら口をつけたところを指でぬぐい、お茶碗の景色をしばし鑑賞します。
「粉をといて飲むだけのことだからこそ気持ちが大事」とおっしゃる森先生のお話はどれも面白く、端々から温かいお人柄が伝わってきました。
質問コーナーでは本日の催しに合わせて選定した掛け軸『夏雲多奇峰(かうんきほうおおし)』や茶杓『虫の音』をご紹介いただき、お客さまからは「たくさんの学びが得られた」「また是非参加したい」とのお声を多数いただきました。
スタッフの声
和菓子職人の永用さんと髙木さんより、それぞれコメントをいただきました。
永用「幼い頃に明日館の体操教室に通っていたお子さまを連れて久しぶりに再訪されたお客さま。以前、明日館で挙式されて、成長したお子さまとご参加くださったお客さま。いくつも素敵なお話をうかがえて、皆さまの思い出づくりに一役買えたことを非常に光栄に思います」
髙木「初参加の方にも和菓子の材料や道具に関心を持っていただけたことが良かったです。また、由緒ある学びの場で、和菓子作りに集中して取り組んでいただいて、それぞれのお菓子の出来栄えに満足いただけたことが、職人として嬉しい限りです」
これからも銀座凮月堂の和菓子作り体験は独自の切り口で、和菓子の魅力を五感を通じて味わえるようなコラボレーションを開催する予定です。ぜひご期待ください。
次回の出張和菓子作り体験は9/10 (土)・11(日)。千駄ヶ谷ギャラリーにて、ガラス作家イイノナホさんの抹茶椀でのお点前と、銀座凮月堂の和菓子作り体験をお楽しみいただける催しです。
ご予約はこちらから
→https://www.instagram.com/p/ChtwBlFuEmm/