銀座凮月堂は伝統ある和菓子店でありながら、常に新しいものを提案したいと新作菓子の開発に取り組んでいます。今回は、2020年の秋から販売を開始したバタークッキーの詰め合わせ『SSAW』をご紹介。工房スタッフの木田さんと広報担当の土屋さんが二人三脚で作り上げたシリーズです。
和菓子のおもたせといえば、季節の風物詩をモチーフにした練切などの生菓子が中心。和菓子屋ならではの季節感も大切にしながら、日持ちする焼き菓子を提供したいと考えました。
缶入りのふきよせや日本の伝統文様を模したクッキー、銀座凮月堂のロゴのモチーフでもある月型にするなどさまざまな案を出し合い、検討を重ねる中で、クッキーを箱の中で縦に並べた時のかわいらしさや面白さに気がつきます。
土屋「何度も試食会を重ねてようやく今の形のベースができ、薄いクッキーを透明ケースの中に縦に並べて見せる包装にしようと決めました。ここでしか手に入らないおもたせとして、銀座ならではのモチーフを探す中で、ビルが立ち並ぶ様子をクッキーにしたら面白いのではないかと提案した際に、社長より『伝統的な花鳥風月ではなく、この銀座の地からとらえた都会の四季という切り口でぜひ進めてほしい』と要望があり、全体の方針が固まりました」。
秋のテーマとなったのは赤く色づいた秋の心象風景。冬はライトアップされた銀座のビル群。冷たい空気の中、きらめく夜景をイメージしました。続く春は、街中の街路樹や空き地から芽吹く若草をモチーフにしています。
土屋「ソリッドな形のクッキーは珍しく、柔らかい和の色味も目を引きます。男性からの人気も高く、今年はホワイトデーに購入される方が多かったですね」。
土屋「商品名は和菓子職人の石渡さんの提案で、四季の頭文字(Spring、Summer、Autumn、Winter)から取った『SSAW』に。商品タグやリボンの色合いもクッキーのメインカラーに合わせています」。
繊細な技術で作り上げられるクッキーの詰め合わせは、現在1週間に20箱程度の限定販売となっています。
土屋「箱に並べた時に単調にならないようにと、形や色にも工夫を凝らしました。異なる形を組み合わせて、かたまりとして見栄えするようにデザインしたのが一番のポイントです」。
試作に使われたプロトタイプのクッキー型は土屋さんの手作り。まずは段ボールを草や山の形に切り抜き、それらを貼り合わせて作成した土台(左)にアルミ版を沿わせて折り曲げ、金型を試作。それから実際にクッキーを抜いてみて、イメージが固まったらようやく金型職人に発注します。
土屋「どの季節も和の空気を感じられるように、天然色素で色付けしています。秋は紅花、冬はくちなしを使い、現在発売中の春『-kusa-』は、薄い緑に緑茶、濃い緑によもぎを用いています。秋冬はプレーンなバタークッキーでしたが、この春からは緑茶やよもぎの風味も加えています」。
新芽からちらりと覗くピンクのつぼみは、工房スタッフ木田さんのアイデアによるもの。
木田「ピンクのクッキーを貼り合わせて、花のつぼみを表現しました。秋の山には赤とんぼ、冬のビルにはアラザン(銀箔でコーティングした粒砂糖)を使った光を灯しています。お客さまにワクワクしていただけるよう、毎回どこかにワンポイントを忍ばせるようにしました」。
薄焼きの香ばしいバタークッキーにほんのりとよもぎや緑茶の風味が漂い、春の訪れを感じさせてくれます。
木田「一般的なクッキーよりはやや塩を効かせて、後を引く味わいに仕上げました。薄くて軽やかで、つい何度も手が伸びてしまうようなサイズ感もポイントですね」。
『SSAW』をはじめ、季節のおもたせは店内入口の売店にて販売中です。銀座に訪れた際には覗いてみてはいかがでしょうか?
SSAW(エス エス エー ダブリュー)…1,500円(税抜1,388円)